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行田昔ばなし 十三七つ

六三様  作者不詳・行田市北谷住人
 愛宕神社は新道の中程にあって、石垣で積み上げられた上に社があった。石段を二十段ほど登ると賽銭箱が置いてあって、宮司もいなければ社務所もない。積み上げられた石段は子供たちの格好の遊び場となって、子供たちは競って石垣に手を掛けて登っていった。
 ある日のこと、信吉はいつものように石垣に取り付いて登っていくと、上の草むらでかさかさ音がする。見上げると大きな青大将が首を出して、舌をちょろちょろ出している。石垣は、登ることはできても降りることができない。信吉は慌てて、そのまま下までずり落ちてしまった。大した怪我もなかったが、起き上がることができない。青大将はそのまま、信吉の方に向かって降り始めた。信吉の1メートルほど先を、悠々と振り向きながら川に向かって這っていった。
愛宕神社
 その時捻挫した左足首は、しばらく歩くこともできなかった。接骨の先生は柔道の先生で遠く離れているので、神社の入り口の花屋のおばあさんが、若い頃から柔術の心得があるというので、おばあさんに診て貰うことにした。
おばあさんの家は花屋さんで、表から声を掛けると、奥の方から白髪頭に元結で髪を結んで可愛い声で「おいでなんしょ」といってお歯黒の顔が見えた。頭の頂上は一銭銅貨ほどの禿げができていた。女の人は子供の頃から髪を結うので、頭の頂上の毛がなくなってしまうと聞いたことがあった。両手をついて頭を下げた時は、そこが光って見える。
 おばあさんは子供たちの軽い捻挫や骨折を治してくれる。信吉の足を揉みほぐしながら、
「ぼん、ここはどうだ。痛いか」
小さな細い指で触れられると、飛び上るほどの激痛が走る。押さえられたところはどこも痛かった。信吉は「痛くない」と言って涙をこぼした。
「一人じゃ帰れないから、誰かに背負わせようか。当分歩いちゃいけないよ。明日もおいで、診てあげるから」
 おばあさんは黒い酢の臭いのする真っ黒などろどろした薬を、茶色のかめの中から取り出して、フランネルの布に塗りつけると、信吉の足首に張り付けて包帯で巻いてくれた。信吉はおばあさんの家の若い衆に背負われて家に帰ってくると、信吉が一人で愛宕様に遊びに行ったといって、大騒ぎになった。
「愛宕様の後ろの川には河童が住んでいるから、あそこへ遊びに行っちゃだめだ」
 信吉は怪我をして帰ってきたので神妙に話を聞いていた。河童は人間の歯は丈夫なので、お尻から入って川に沈めて子供を食べるという。美代は「この間も愛宕様の川で、子供が河童に浚(さら)われて上がって来なかった」と真剣になって話していた。
 神社の後ろは川が流れて、水の流れに川藻が根付いて流れに揺られ、小魚の泳いでいる影が見え隠れする。遊びながら四つ手網を仕掛けておくと、網の上に小魚がおよいでいるのが良く見える。四つ手は、鈎(かぎ)の手に網が高く囲われているので、網に入った魚は素早く網を上げれば逃げることができない。ガラスうけも、ご飯粒を入れておくだけで、一晩置いておけばよく小魚が入っていた。
 信吉の捻挫はなかなか治らなかった。神社の境内には小さなおじいさんが、小さな屋台を引いて、首に掛けた手拭いで鼻水を拭きながら、しんこ細工を作っていた。色々な花や、鳥や、動物を見ている前で仕上げていく。中でも鶏の雄鶏は、今でも声をあげて泣き出すほどに、上手に小ばさみの音をさせながら出来上がっていった。
信吉の捻挫は一週間して発熱した。しょうどんが二見屋に氷を買いに行く。吉田のおばあさんが来て、これは六三様だから「六三除け」をした方がいいといって、そろばんをはじいて病気の位置を決めた。
 「六三除け」は数え年の年齢を九で割って、残った数字で病気の場所が分かるという。吉田のおばあさんはよくあたるというので、子供のいる家はわざわざ頼みに行く家もあった。六種類のお菓子を用意して、六三様に供えるのだという。半紙に包んだ菓子を誰か食べてくれれば治るというので、美代が愛宕様の鳥居の下に置いてきた。
 信吉の熱はすぐには下がらなかったが、三日目になってやっと平熱になると吉田のおばあさんが来て、
「やっぱり、六三様だったね」
といいながら、信吉の寝ている枕元に来て、銀キセルにタバコを詰めて吸い始めた。捻挫もその頃からそろそろ歩けるようになった。
 信吉は六三様ってどういう顔してるのか、考えながら深い眠りに入った。

※「十三七つ」とは「まだ若いこと」です。
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これまでの「行田昔ばなし 十三七つ」 作者不詳・行田市北谷住人
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